私を幸せにするライフスタイル BONITA message ~ いろいろな女性が自ら発信するコラム型WEB
私を幸せにするライフスタイル BONITA message
2009.01.19.更新
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■ 野人になったIT社員の話 その4

海風が吹き上げる--寒さを極める野宿生活。

当時滞在していた海風工房の外観。
当時滞在していた海風工房の外観。

 沖縄といえども、冬は寒い。夜ともなれば、海風が吹き上げてくるガラス工房はガタガタ震えるほどに寒くなる。「沖縄は寒さの種類が違う」とよく言われる。風が強いのだ。体感温度は天気予報より3度は低い。フリースやジャンパーなどを3枚ほど重ね着し、寝袋にもぐりこむ。それでも寒いので溶解炉にぴったりとはりついて眠る。あまりの寒さに食事もとらないで蓑虫のように固まっていると、「食べてください」と添え書きのしてあるハンバーガーが枕元に置かれていたこともあった。それはものすごくありがたかったが、まるで自分がお地蔵さんか何かになったような気分で、妙な錯覚を覚えた。昼はテーマパークの企画コンサルタント、夜はガラス工房の窯の番という生活をしながら、少しずつ沖縄での交友関係も広がっていった。

 

今度は俺か、お前の番か?


 そんなある日、東京から電話がかかってきた。私が無期限の沖縄滞在を決めたときに、見送りに来てくれたライター仲間の一人だった。
「山本が、死んだよ」
 山本とは20年来の付き合いになるライター仲間だった。彼もまた見送りにきてくれていたうちの一人だったのだ。10年以上うつを患っていた彼に私は、何度となく沖縄で生活してみたらどうか? と勧めていた。生活といわないまでも、1週間ほど旅行できてみてはどうか? と。「そうだなあ」と生返事を繰り返すだけで結局、それは叶うことはなかった。そして睡眠薬のオーバードーズを繰り返すうちに彼は帰らぬ人となってしまった。その冬は、東京に住むうつを患っている知人、友人の多くが亡くなった。電話の主は、「今度は俺か、お前の番かもしれないな」と冗談ともつかぬことを言った。自分も沖縄に来ていなければこの「死の連鎖」に絡めとられていたかもしれない。

新しい工房の建設風景
新しい工房の建設風景
 もう一軒、ガラス工房を建設することが決まったのはその頃だ。東シナ海に面したロケーションに「Gala青い海」というテーマパークができる。そこにテナントとして入ってもらえないか、ということらしい。私は夜になると「出る」といわれる場所で、東京で亡くなった友人たちを思った。「出るというなら、出てきてくれ。死んだ理由を教えろよ!」と憤りにも似た気持ちで、夜の闇と対峙した。「生きるとは? 死ぬとは?」――思えば学生時代に自身の小説のテーマとしてやっていこうと思った問題が、今まさに身に差し迫ってあることに感動にも似た感情で「人生の計らい」を思わずにはいられなかった。「考えるな、感じたままに生きろ」というのは沖縄に渡ってからずっと貫いてきた姿勢だが、新しい工房の建設も始まり、それに伴うような形で私の体調はみるみるうちに良くなっていった。沖縄の海も空も、風景も、琉球ガラスも、人々も「生命力」に溢れているように思えた。その「生命力」に触れることで、自分は命拾いをしたのだと、感謝せずにはいられなかった。

みんな横並びさぁ--ニライカナイという思想。

ニライカナイは海のむこうにあるという。
ニライカナイは海のむこうにあるという。
 「あんた、知ってるかい?」
テーマパークの草を刈ることを生業にしているオジィに声をかけられた。
「内地の神さまは天の上にいるんだろう? うちなーの神さまは違う。海の向こうにあるんだ、神さまの島、ニライカナイ。赤ん坊の生まれる前に魂があるところ。亡くなった人の魂が帰るところ。神さまが横並びならば、生きている人も死んでいる人も横並びさ。どっちが偉いというのもない。偉いというなら、みんな偉いな」
 死者をどこか遠くに棚上げして祭り上げず、いつでも隣にいるような存在として扱っているのもそんな思想から来ているのかもしれない。死も生も超越した「ただあること」の存在の不思議、別の言い方をすれば「遍満する生命」が沖縄のそこかしこに宿っているように思えてならなかった。それを大海とたとえるならば、死者も生者も私もあなたも神さまもそれに摂せられる一滴の水のように思えてならなかった。

新しい工房、グラスアート青い風が誕生。

がんばるくん(後ろ)と、初期の頃のニラカナちゃん
がんばるくん(後ろ)と、初期の頃のニラカナちゃん

 そうこうしているうちに新しいガラス工房がオープンした。それまで居候に過ぎなかった私は「広報・営業」という肩書きをもらい、ガラス工房の社員となった。とはいっても、オープン間もない時期は何もすることはなく、友人と二人でトンボ玉のアクセサリを作っていた。
「オリジナルのものを作りたいな」
 と友人は言った。そして彼は手際よく道具を駆使し、「がんばるくん」というキャラクターを作り上げた。両腕は天に向かっていて、両足は大地をしっかり踏みしめているような力強いキャラクターだ。
「お前には作れないだろう?」
 そう挑発されて、私はなれない手つきでガラスを繰ってみた。しかし、「がんばるくん」はできない。
「うつ病患者に、がんばるくんが作れるわけがない」
 何故ならがんばる必要はないからな、といって私は開き直って笑った。
「その代わり……何か生まれそうだよ」
 沖縄に遍満する「いのち」を象徴するような何かを生み出せたらと、バーナーの上でガラスを回転させながら私は思った。
 そして出来上がったのが、後に「ニラカナちゃん」と名づけられた、妖精の形をしたキャラクターだった。



(次週につづく)

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【NAME】佐々木仁孝
沖縄は「癒しの島」とマスコミなどに謳われて久しいですが、実際の沖縄生活はどうなのか。移住者(ときに沖縄県民)を取材し、その実態をご紹介します。
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